明日香のめぐみ鍋 冬のめぐみをいただくこと



このところ足繁く通っている明日香ビオマルシェ。明日香ビオマルシェは、名前のとおり、明日香で開催されているビオ=オーガニックの朝市だ。毎週金曜日、9時から12時までの開催で、野菜をメインに販売する。おかれているのはどれも無農薬・無化成肥料のものばかり。そして間違いなく言えるのは、どの野菜も丁寧に作られた味がするということ。露地栽培がメインの野菜は旬のもので、新鮮で健康な野菜はどれも美味しい。オーガニックが「善い」ものだから選ぶというのではなく、美味しいものを選んでいったらそれがオーガニックだったというふうにぼくには思える。そして美味しいものだからもっとみんなに知ってもらいたいと自然にぼくは思う。



月一で開催されているオーガニックマーケットは多いが、毎週ビオの野菜をメインに開催している市/マーケットは全国的にも珍しいのではないだろうか。オーガニックの野菜を生産するのは小規模な生産者であることが多く、毎週の開催は難しいという事情がそこにはあるのだろう。しかしその困難を乗り越えてオーガニックの食べ物を日常の食卓につなげようという明日香ビオマルシェの試みは画期的な意味がある。実際に自分が週に一度のマルシェを利用するようになって思うのは、それが圧倒的に「便利」だということ。オーガニックの野菜は長持ちする。週に一度の買い出しなら家庭の食事は十分にまかなえる。いわゆるスーパーの食材に比べると価格は1.5倍から2倍程度であるが、その価格もかかった手間ひまを考えれば良心的であるし、味の違いを考えても決して高いものではない。顔の分かる生産者から直接食べ物を手に入れるのは大切なことではないだろうか。マルシェで売っているのは野菜など生鮮食品がメインであるが、素材がいいので調理に手間をかけなくても十分おいしく食べられる。実際に自分がマルシェに通うようになって、加工品を買う機械が圧倒的に減った。自分でちょっと手を加えればその方が美味い物が食べられるのだから。

週一で定期的に開催されるのは、生活者にとって偉大なこであると思う。月一のマーケットだと、やはり普段使いには難しい。どうしてもハレのもの、イベント的なものになってしまう。どうしても野菜を買うというよりも、すぐに食べられるものや嗜好品に目が向かう。パンだとか珈琲だとか蜂蜜だとかお菓子だとか。それが週一の開催だと、生活の一部に組み込める。一週間分の野菜を買って一週間で使い切る。その繰り返し。無農薬とか化成肥料に依存しないとか、オーガニックと言われるものが特別なものではなく日常になることがぼくたちの目指すところなのだ。


12月の師走、仲間内での集まりに、そんな明日香ビオマルシェで買い集めた食材で鍋パーティーを開催した。少し早い忘年会、鍋のメインはのらのわ耕舎さんの鶏肉。のらのわ耕舎さんは明日香でたまごをメインに生産をする農家さんだが鶏肉も1羽パックで販売している。なかなかふだんは買えないので、何かの機会に利用してみたいと思っていた。鶏肉からいいダシが出るので、美味しい野菜が炊けるという。そしてシメはたまご雑炊。たまごものらのわさんのものというカンペキな親子ナベだ。



メンバーに乳幼児を連れたお母さんがいるので、会場は友人宅に。板張りのフローリングが素敵なおうちにお邪魔させてもらった。鍋に入れる食材は、たるたる農園さんの白菜と下仁田ねぎ、新鮮しいたけ岡本さんの生しいたけ、harasawa farm さんのにんじん、郷原農園さんの紅大根と白大根、のらのわさんの菊菜と水菜。食材のひとつひとつ誰が作ったのか分かるぜいたく。



のらのわさんの鶏肉は、1羽分がパック詰めで冷凍されたもので、各部位が入っている。2時間ほど流水で解凍して、ほどよく溶けたら食べ頃だ。入っているのは、モモ肉、胸肉、ささみ、肝臓、ハツ(心臓)、腸、金肝。キンカンというのはたまごになる前の部位のこと。ナベにおすすめの食べ方として聞いたのは、モモは2〜3センチ角の小さめに切って、皮目からナベに入れる。歯ごたえがコリコリしているので、あまり大きく切らず小さめがおすすめ。モモ肉からはいいダシが出る。胸肉は皮をはいでうすくそぎ切りにしてしゃぶしゃぶに。皮は切ってそのままナベに。肝臓はナベにはむかないので、薄く切ってごま油で焼いて塩・こしょうをすれば美味しい。ほかの内臓は食べやすい大きさに切ってナベに。キンカンはたまごになるところなので、丸のまま割らずにナベに。実際にパックを開けてみると、ふだんはあまり見る機会のないトリの臓物(!)の姿が。特にキンカンは、たまごの大きいところから小さいところまでズラリと入っていて、衝撃的な姿だった(ちなみにのらのわさんはたまごのためのトリなのでメスしかいない。鶏のたまごは人間の生理と同じなので、オスがいなくてもたまごを生む)。上から下までトリの姿がズラリと入ったパックは、命を食べるという意味が分かるような気がする。



ナベにつけるポン酢は、調べると7・5・3とあったので(とネットに書いてあった)自作してみる。しょうゆ7:酢5:みりん3の割合で混ぜて追いがつおでダシをとる。柑橘系で香りをつけてもいいらしい。そのほかつけあわせにゆず胡椒、ゲランドの塩、市販のごまだれを用意して好みで取り合わせられるようにした。



たっぷりの野菜を洗って切って、準備が出来たところで、卓上コンロを囲んだ鍋パーティーがはじまった。のらのわさんの鶏は、話に聞いていたとおり、歯触りがコリコリしていて美味しい。胸肉やささみも、ふだんの肉より食感がしっかりした感じで美味しかった。だがいちばん驚いたのはモツの部分。モツといって想像するような臭みのようなものはまったくなくて、レバーもものすごく食べやすくて驚いた。逆にモツというのはこんなに美味しいのかと教えられる。そう思うと、ぼくたちがふだん食べている肉というのはずいぶん危ういものを食べさせられているのかもしれないなと思う。ケージの中で運動もせず、薬漬け、薬品漬け、人間でいう「メタボ」の鶏をぼくたちは食べているわけで。少し前までの日本人は、家の裏で放し飼いにされて、雑草や残飯をエサにしたもっとうまい鶏を食べていたのかもしれない。



仲間内にもトリ鍋は好評で、ぼくもとりあえずほっと胸をなで下ろした。明日香ビオマルシェ大使として、ぼくも少しはPRできただろうか。だしは鶏肉と干し椎茸、あとは野菜というシンプルで単純な鍋だったけど、野菜のうまみのしっかりつまった素朴でいい味だった。最後にごはんとたまごと菊菜(菊菜ものらのわさん)を入れて作った雑炊も絶品で、3時間近く、ぼくらはひたすら鍋を食べ続けたのだった。お菓子やジュースの買い出しもしていたのだが、そこまでたどりつかずじまいで、明日香のめぐみの鍋を堪能し続けた集まりだった。



この忘年会も終わり、明日香のめぐみ鍋でからだも満たされ、来年も良い年を迎えられますように。